週刊ザコいおたく

早稲田大学初のおたく情報誌を刊行するサークル「ギークタイムズ編集部」の公式ブログ兼電子版です。毎週金曜日に更新します。

『きんいろモザイク』入門:欠点と行き違いの「愛おしさ」

 皆さんは20137月クールに放送された『きんいろモザイク』というアニメを覚えているだろうか。芳文社が発刊している『まんがタイムきららMAX』に連載中の同名4コマ漫画を原作とするこの作品は、10年に渡る私のおたく人生の中でも、特に気に入った作品のひとつだ。本稿は、作品の概略と「きんモザ」の魅力の精髄について、拙いながらに書き綴るものである。なおネタバレの防止に配慮した結果、少々ぼかしを入れたり実例を省いた書き方をした部分があるので、実際に作品をご覧になって頂ければいち信仰者としてこれほど有り難いこともない。

 

 本作は、3年前にイギリスにホームステイした経験を持つ高校1年生の少女「大宮 忍」と、中学時代からの友人である「小路 綾」「猪熊 陽子」の前に、当時のホストファミリーの一人娘「アリス・カータレット」が現れるところから始まる。アリスは3年の間に日本語を習得しており、今度は自分が忍の家にホームステイしに来たと言うのだ。更にアリスが日本にやって来てから暫く経った頃、イギリス人と日本人のハーフでアリスの親友である「九条 カレン」が父母ともども日本に引っ越してきて、五人の日英美少女による面白おかしい学園生活が開幕する。タイトルの『きんいろモザイク』は、二人の金髪少女と三人の日本人少女が織りなす日常を、剥片を組み合わせて描かれるモザイク画の技法に例えている(卑猥な意味はない)

 

 前段落で日常という言葉を使った通り、きんいろモザイクはいわゆる「日常系美少女アニメ」として作られている。確かに本作の魅力として最初に目につくのは登場人物の挙動の愛らしさや、(特に第一話のイギリスホームステイパートにおける)精緻な背景描写といった、ビジュアル的な面である。だがそれは、物語としての面白くなさや、キャラクター性の淡白さを意味しない。それどころか、きんいろモザイクの登場人物はかなりエッジの効いた、コメディの担い手としてとんがった性質を内包する者達だ。主役の忍からして、タレ目に黒髪のおかっぱという純和風の容姿と誰に対しても敬語を使うという優しげな第一印象に反して、とてつもないおバカという欠点がある。「ハロー」しか言えなかったホームステイの時と高校生時とで英語力がほとんど変わらず、自室ではエッフェル塔の模型とベネチアの仮面を横に並べて飾っているあたりからも、その知能が伺えるだろう。それだけなら比較的よくある設定なのだが、作品を注視していくと、忍はアリスと出会って以来「通訳者になる」という夢を抱いているにも関わらずほとんど努力の様子がないという、いささか度を越している愚かさを持つ人物であることが浮き彫りになっていく。

 

「度を越した」欠点や不安要素を持っているのは忍だけではない。忍と会うために単身で日本にやってくるほど彼女に激しく依存しているアリスは金髪好きの忍の注目を集めるカレンにあからさまな嫉妬を見せる。「アリスが好きだけど金髪全般も好き」「英語は喋れない」の忍と比較すると、「とにかく忍が一番」で「日本語を頑張って習得した」アリスは、いささか不憫でもある。綾は最初の親友である陽子にほとんど恋愛感情のような気持ちを抱いているものの、その極端な奥手さが災いして何も言い出せない上に、些細なことで頬を赤らめる奇矯な側面を持つ。カレンは日本に不慣れなためか想像もできない行動を取って先生を驚かせたり、無遠慮にモブ男子生徒の座っているデスクに腰掛けたりするし、陽子は比較的まともだが極端に鈍感であるため、なんの気なしに綾が真に受けて心を乱すような発言をしてしまう。どれもこれも日常系アニメがもたらすべき「安心感」からは遠く、むしろブラックなギャグとして受け止められるか、あるいは受け手に対して登場人物の将来についての不安を喚起するような描写だ。

 

ここまでを読んだ方は、きんいろモザイクの本質はかわいらしい登場人物に秘められた「毒」や「アク」を描くことなのかと思われるかもしれない。しかし本作の印象は、視聴者が少女たちの持つ欠点や汚点を認識した後でもう一度ぐるりと裏返る。きんいろモザイクに登場する五人の少女は確かに性格面での問題や、互いの慕情のレベルに関する行き違いを抱えているかもしれないが、それでも仲良しグループとして強固に結びつき、互いを好き合っているのだ。これはアニメのサブタイトルに使われた「すてきな5にんぐみ」や「どんなにきみがすきだかあててごらん」と言ったフレーズにも如実に現れている。集団の中でやんわりと相互肯定するその関係は言ってみれば家族のそれに近い。丸い人間が丸い関係をつくるのではなく、デコボコした心を持つ五人がひとつにまとまって安定する様子が、同じく完璧ではない人間として存在する私達に、却って大きな安心感と共感を与えてくれる。「ファンタジックなパッケージに梱包されたリアルな救い」を表現している点において、きんいろモザイクという作品は秀でているのだ。

 

 

さて、駄文でつらつらと語ってきたが、きんいろモザイクの魅力は実際に触れてもらうこと以外では伝えきれない。皆さんにはアニメの映像ソフトをレンタルするか、原作(既刊4巻)を読むなどして、是非この「確かな物語」を持った作品に触れて頂ければと思う。だいぶ先のことになるが、8月に発売されるリーズナブルな価格の北米版BOXを購入するのも良いだろう。そして既にきんいろモザイクをご覧になった方にとっては、拙稿が来るべき二期に向けて再視聴を行う際の一助になれば、この上ない幸いである。